非常階段の扉が開いた。思わず振り返った私は出てきた人物を見て更に涙が溢れる。
「こんなとこでサボるなんて早峰の社員は本当に暇なんだな」
どうして……ここに来るの?
「俺も休憩するわ」
彼は横を抜け上に向かう階段の下から二段目に座ると、上目使いで目の前に立つ私を見上げた。
前回気持ちのいい別れ方ではなかった。なのにこの人はどうしていつも私に絡むのか。
手の甲で涙をぬぐった。
「俺に会えて泣くほど嬉しい?」
「違います! 嬉しくないし!」
「そう言われると傷つくなー」
椎名さんは少しも傷ついた様子は見られない。
「何で泣いてるの?」
「椎名さんには関係ありません」
「あるよ。好きな女が泣いてたらほっとけないでしょ」
この人はまたそうやって冗談を言う。
「私、修一さんと付き合ってるって言いましたよね」
「でも俺は諦めてないし。それとも、君を好きでいることもだめなの?」
「それは……」
本当に私のことが好きなの? 椎名さんほどの人が?
「すみません……何て言っていいか分かりません……」
「そう……」
椎名さんの表情と声からは怒っているのか悲しんでいるのかの判断がつかない。
「俺なら夏帆ちゃんが辛い時そばにいてあげるのに」
修一さんの声が聞けなかった私に、そんな言葉は心をえぐる。
乾いたはずの涙が再び頬を伝った。
噂は数日前から広まっていた。修一さんだって少しは否定してくれていたらこんなにも広まらなかったかもしれない。
みんなが面白おかしく言う通り実は修一さんは私に迷惑してるのかな、なんて思えてきてしまった。
「っ……ふぇっ……」
椎名さんの前でも涙は止まらない。嗚咽を堪えるのが精一杯。
もう無理。会社にいるのが辛い。



