落ちる恋あれば拾う恋だってある


「あの、私の担当するエリアの店にも生花をお願いしたいと思ってるんですけど、カタログありますか?」

「はい。今は持っていないんですが、車にありますのでお持ちしますか?」

「嬉しいです。でも作業中でしょうから、またの機会にいただきます」

「恐れ入ります」

女は上目使いで俺を見た。こいつがどういう期待を込めて俺を見ているかは言われなくたって分かる。

「では、次の機会がありましたらこちらに」

女は名刺を俺に差し出した。受け取った名刺には営業推進部の宇佐見と名前があり、会社の番号と社用らしき携帯の番号が書かれている。

「ではもし近くに来ましたらご連絡させて頂きます」

「お待ちしております」

宇佐見という女は意味ありげに俺を見ると、軽く頭を下げて通路の奥に行ってしまった。

宇佐見の気配が遠ざかったのを感じると名刺を見た。
早峰に出入りするようになって名刺をたくさんもらったが、俺は営業じゃないし正直必要ない。この名刺も事務所の名刺入れに取りあえず入れておくか。

何となく裏を見ると手書きで携帯の番号とLINEのIDらしきアルファベットが書かれていた。番号は表のものとは違うからプライベートの番号だろう。
本当に分かりやすい。でも連絡しねーし。

今までの俺なら予備のセフレにはしていたかもしれないが、興味のない女は相手にしないと決めていた。

台車を押して渡り廊下の先の通路に来た。ここに置きたい種類は前から決めていた。
俺は置いてあるサンセベリアを台車に載せると、代わりにマッサンゲアナを通路に置いた。
マッサンゲアナの別名は『幸福の木』。この通路の奥にいる夏帆が毎日見えるように。