さて、頑張って作るか。
家族に作るときよりも丁寧に。見た目も味も失敗できないから。

「っ……すっ……」

玉ねぎを切ったら目が痛くて涙が出た。包丁の切れ味が悪いのかな。

「大丈夫?」

横山さんが私の様子を見に来た。

「大丈夫です。玉ねぎが目にしみて」

「そっか」

そう言って横山さんは私の後ろに立ったかと思うと、そっと私を抱き締めた。

「横山さん……」

「何?」

「あの……作りにくいです……」

横山さんの手が私の腰に回って動きづらい。

「ごめんね」

謝っても私から離れようとしない。背中に横山さんの温もりを感じる。

「もう……」

怒っているわけじゃない。照れ隠しでむくれて見せる。抱き締められながら料理を作るなんてシチュエーション、ドラマやマンガみたいだから。





「いただきます!」

横山さんはオムライスを口に入れた。卵はとろとろのふわふわにできたし、チキンライスも味は大丈夫なはず……。

「やっぱ美味しいね」

「ありがとうございます」

満面の笑みに安心する。横山さんに作る料理はプレッシャーだから。

「北川さんって料理上手だよね。作るの好きなんだ?」

「母が仕事で忙しくて、代わりに作ってたら自然とできるようになりました」

「そっか。だから家庭的なもの全部美味しいんだね」

「ありがとうございます」

当たり前にやってきたことを褒めてもらえると嬉しい。

食後にインスタントのコーヒーとデザートにスーパーで買ったプリンを食べた。とりとめもない話をして、食器を洗って帰ろうかと思った。

「じゃあ私はこれで」

「え? もう帰るの?」

立ち上がった私を横山さんは引き留める。

「あの……」

横山さんのプライベートな場所に長居するのは悪いかなって思ったから帰ろうとしたけれど。