エレベーターが総務部のフロアに着きドアが開くと、目の前にファイルを持った夏帆が立っていた。
俺の顔を見た瞬間目を真ん丸に見開き、その状況が以前と同じだと思い出し笑いそうになる。

「お疲れ様です」

俺は前とは何も変わらない声で夏帆に挨拶した。

「お、お疲れ様です……」

夏帆はエレベーターの中にいる俺や他の二人を見て動揺している。

「それでは、よろしくお願い致します」

俺は二人に軽く頭を下げるとエレベーターを降りた。夏帆もエレベーターには乗らずにドアが閉まった。廊下には俺と夏帆だけが残された。
夏帆と目が合い、すぐに逸らされた。

「…………」

「……ふっ」

俺の顔を見ようとしないで下を向く夏帆につい笑ってしまった。
分かりやすい。俺と会いたくないと思っていることは言われなくても分かってしまう。

「サインお願いします」

俺の言葉に顔を上げた夏帆に納品書を渡した。

「はい……」

夏帆は持っているファイルを脇に挟むと納品書を受け取り『北川』と名前を書いた。

「そういえば俺が早峰に来るようになってからうちの会社と契約が増えてるんだよね」

「そうですか……」

「新しくできる店にも植物を置いてもらうことになったよ」

「そうですか……よかったですね」

ぶっきらぼうな口のきき方だ。

その店だろ? 横山とかいう男が関わるのは。こんなに早く新店と契約すると思わなかった。

「まっ、それは俺の担当エリアじゃないからどうでもいいけど。さっきの子たちに営業推進部のフロアにも鉢を置いてほしいって言ってもらったし」

「また勝手に……余計なことに経費を使って……」

夏帆の顔が曇った。
この間は「植物が癒される」と言ってくれた口で『余計なこと』と言われて少しだけ悲しくなる。