右隣に座る横山さんが小声で私の様子を気にかけてくれる。

「はい……怖いですけど大丈夫です……」

「僕横にいるから。力抜いて」

「はい……」

私は膝の上に置いていた両手を肘掛けに置いた。

ただのホラー映画で怖がって恥ずかしいな……やっぱりレンタルにすればよかったかな……。ああ何かが来る!!

主人公が暗闇の中で僅かな光を頼りに振り向いた瞬間私は肘掛けをぎゅっと握りしめた。同時に右手が温かいもので包まれた。

「っ……」

怖い場面で自分の手に起こった異変に二重に驚いた。
薄暗い館内で自分の右手を見た。私の手の上に横山さんの手が置かれていた。驚いて横山さんを見ると、表情を変えずにスクリーンを真っ直ぐ見ていた。

横山さんも手を置きたかったのかな?

私は遠慮して手をどけようと動かすと、逃がさないように指を絡ませてきた。手だけじゃなく体全体が動かなくなってしまった。

これは横山さんと手を繋いでるんだよね?

横山さんの手と私の手はしっかりと絡まって引っ込められそうにない。

『もし怖かったら手を繋いであげようか?』

そう言った言葉が思い出される。

私を安心させるために手を繋いでくれたのかな?

恐怖とは別にドキドキと心臓が激しく鼓動する。映画の内容はもう頭に入ってこなかった。





「北川さん?」

横山さんに呼ばれてはっと我に返るとエンドロールも終わり館内が明るくなっていた。

「あ……」

「出ようか」

横山さんと手を繋いだまま立ち上がって出口まで歩いた。

「意外なラストだったね」

「あ……はい……」

ラストなんて見れていない。ストーリーなんて覚えていない。今の私にはこの手の感触しかない。