「あ、いえ、大丈夫です!」

嬉しい! これではまるで本当のデートのようだ。

「どこ行きたい? 買い物とかする?」

「そうですね……」

駅の周辺を見回す。商業ビルがあって、少し歩けば公園があって、すぐ横のビルには映画館も。
そういえば気になる映画があったんだ。
ビルの壁に貼られた巨大ポスターを見上げた。劇場に観に行こうか迷っていたホラー映画のポスターだ。好きな海外ドラマに出演している俳優の主演作だった。
気になってはいるけどホラーは一人では観に行けなかった。ブルーレイがレンタルされたら借りて家族で観ようと思っていた。

「映画観る?」

「いえ……」

「いいよ。この映画にする?」

私の視線を追って横山さんもポスターを見上げた。

「でもホラーですし……」

せっかく横山さんといるのにホラー映画ってどうなんだろう……。恋愛ものとか、せめてミステリーの方がいいよね。

「僕ホラー好きだよ。北川さんホラー苦手?」

「一人じゃ観れないです。でもこの映画は気になってる俳優が主演なんです」

「じゃあこれにしよう。一人じゃないから怖くないよ」

横山さんは私の顔を見て言った。

「それに、もし怖かったら手を繋いであげようか?」

「そ、そんな、大丈夫ですよ!」

笑顔で言う横山さんに焦ってしまう。そんな冗談は余裕のない私は笑えない。

「じゃあ行こうか」

横山さんについて窓口でチケットを買った。

映画が始まって一時間ほどたっただろうか。
元々一人では観れないくらいにはホラーは苦手だ。主演が興味のない俳優ならこの映画は観なかったかもしれない。
怖い何かがもうすぐ出てくると分かってはいても、びくびく怯えて両手を握りしめていた。

「大丈夫?」