「先輩のウエディングドレス楽しみにしてます!」
「ありがとう! じゃあね」
私は先輩と別れて駅まで歩き出した。
「かーほーちゃん!」
振り返ると中田さんがニヤニヤしながら私の後ろに立っていた。
「帰っちゃうの?」
「はい……明日も仕事なので……」
思わず中田さんから離れるように一歩下がった。自惚れかもしれないけれど、何となく私をこのまま帰さないつもりなのが分かった。
「土曜は休みって言ってなかった?」
「明日は休日出勤当番なので……」
「ふーん……」
中田さんは疑うような顔をする。けれど明日出勤なのは本当だ。
「会社って古明橋でしょ? ここから近いし大丈夫だよね」
「え?」
「俺と別の店に飲みに行こうよ」
「あの……」
中田さんと二人なんて嫌だ。でもこんな風に誘われたのは初めてで、どうやって断ったらいいのか迷ってしまう。
「あの……明日も早いので、今日は帰ります」
中田さんは私に近づいて耳元で「終電なくなっても泊まるところはこの辺りいっぱいあるから大丈夫」と囁いた。
私は顔が熱くなり鳥肌がたった。中田さんは私をそういう意味で誘っているのだ。
「行こうよ」
至近距離で言われ恐怖で体がすくむ。中田さんは動けないでいる私の手を取って連れていこうとした。
嫌だ嫌だ嫌だ!! どうしようどうしようどうしよう……。
「待てよ」
突然私の体が後ろから誰かの腕に包まれた。
「この子は俺と帰るから」
後ろにいる腕の主を振り返ると、椎名さんが私の肩を優しく抱き締めていた。
「は? 洋輔くん何言ってんの?」
「俺が駅まで送るから大丈夫」
「やっぱ洋輔くんも夏帆ちゃん狙いなわけ?」



