そう言うと横山さんは調理室から出ていった。
私もそろそろ戻ろう。
「北川さん雰囲気変わった」
突然主任が私に話しかけた。
「え? そうですか?」
「前よりも明るい」
それはよく言われることだが、別部署の主任にまでそう言ってもらえるとは思っていなかった。
「ありがとうございます」
「でも中身は変わらないね。真面目で」
それは褒めているの? 嫌みなの?
感情を出さない主任の表情からは判断ができない。
「横山さんはああ見えて結構だらしないから、そこは気をつけて」
「……はい?」
横山さんがだらしない? そんな風には見えないんだけど。気をつけてとはどういう意味?
「あの……」
「横山さんに高いメニュー奢ってもらいな」
「あはは……そうですね……」
主任の言葉は簡略すぎて何が言いたいのかはさっぱり分からなかった。
帰りの電車に乗っている時も、夕ご飯を食べている時も、お風呂に入っても落ち着かない。
横山さんにいつ連絡しよう……。早すぎてもがっついてるみたいだし、遅すぎても迷惑だよね。
短文のメッセージなのに悩みながら送信した。
プライベートで男の人に連絡する機会が滅多にない。こんなことで悩んでしまう自分が悲しい。
数分して横山さんから返信が来た。
昼間話したカフェには日曜に行くことになった。口約束じゃなくて実際に待ち合わせの時間まで決めることができた。
休日にも横山さんと会えるのは嬉しいけど今から緊張する。
今日はなんて良い日なんだろう。横山さんとメッセージのやり取りができて、一緒に出掛ける約束まで。
嫌なことの後には良いこともあるもんだな。