「あの横山さん、それで思い出したんですけど、花の装飾のカタログをもらったんですけど要りますか?」

「ほんとに? ありがとう。是非見たいな」

「じゃあ今度お持ちします」

良かった! 余計なお世話じゃなくて。

「ねえ北川さん、隣町の駅に行ったことある?」

「はい。映画を観に行ったことがあります」

「去年その駅の近くに新しいカフェがオープンしたのは知ってるかな?」

「いえ、知りませんでした……」

「お願いがあるんだけど、そのカフェに一緒に行ってくれないかな?」

「え?」

「うちの新店も同じ駅なんだ。北口と南口だし、あっちは駅から少し歩くから真っ向から争うわけじゃないけど、気になるからさ」

「そうですね……」

「男一人で入れる雰囲気じゃないんだよね。女性をターゲットにしたパンケーキメインのカフェだから。本当はレストラン事業部の人と行くつもりだったけどスケジュールが合わなくて。同僚と行くのも男だけだと浮くし、一緒に行ってくれる女の子がいなくて」

「私でよければ」

「助かるよ! ありがとう」

こちらこそ、横山さんとカフェに行けるなんて嬉しい。

「あ、じゃあ連絡先教えて」

横山さんはスマートフォンを出した。

「すみません、私今スマホをデスクに置いてきちゃって」

「じゃあ僕の教えるよ」

近くにあるメモ用紙に番号とアドレスをすらすらと書いて私に渡した。

「後で送っといて」

「ありがとうございます」

私はメモを大事に握った。
社用携帯じゃない、プライベートな連絡先だと思ってもいいかな? それを教えてもらって、浮かれてもいいかな?

ピリリリリリ。

横山さんの携帯の着信音が調理室に響いた。

「ごめん、出てくる」