あれ? これおかしくない?
食品開発部から上がってきた業者への発注書のコピーと、納品書の金額が合わない。
私は受話器を取って内線をかける。
プープープープープープー……。
相手が出ない。
食品開発部は社内にいるのにいつも内線を無視しがちなのだ。
私は丹羽さんに調理室に行く旨を伝えると急いでエレベーターに乗った。
締め日が迫って忙しいのに無駄な時間を取らせないでほしいよ……。
「失礼します」
観音開きのドアを通って調理室に入った。
「すみません」
「あれ、北川さんじゃん」
調理台の前には食品開発部の主任と、なぜか横山さんがいた。私を見ると笑顔を向けてくれる。
好きだと自覚したばかりで今まで以上に横山さんと会うのが緊張してしまう。
「お疲れ様です」
「今日はどうしたの?」
横山さんは少し首を傾げ、私のことを気にかけてくれる。気にかけてくれると勝手に思う私は我ながらポジティブになったかな。
「あの、主任に確認したいことが」
「何?」
柔和な横山さんとは違い、クールな食品開発部主任は無表情で私の言葉を待っている。
「この発注書に対して来た納品書の金額が合わないんです」
私は主任に2枚の紙を見せた。
「確認してみるね。急ぎ?」
「早ければ早いほど助かります」
「分かった」
「北川さんはいつも社内のあっちこっちにいるね」
横山さんは私を見て微笑む。
「そうですか?」
爽やかな笑顔で言われても、横山さんだとそれが恥ずかしいことのように感じてしまう。
私の仕事は社内の他の部署からも呼び出され、仕事を押し付けられ、フロアを行ったり来たりしている。『都合のいい雑用係の社員』だと思われている気がして嫌だった。