新しい服を買って気持ちが満たされた時、ふと目の前を通った男の人に目がいった。
着ている紺色のTシャツの背中には、見慣れた会社のロゴと『株式会社アサカグリーン』と社名がプリントされていた。
見た瞬間怖くて足が止まってしまった。

もしかして椎名さん……? 今は絶対に会いたくないのにどうしてここに?

男の人は鮮やかな色で溢れた花屋の前で止まり、店員さんと話始めた。
落ち着いてよく見ると確かにアサカグリーンの社員のようだが、男の人は椎名さんとは全然似ていない別人だった。

人違いして……馬鹿みたい。

本気で椎名さんだと思って焦ってしまった。
花屋の看板を見るとアサカグリーンのロゴが入っている。ではここが店舗の一つなのだろう。

休日まであの人のことを考えてしまう。それほど迫られたことは強烈な出来事だった。

一体私が椎名さんに何をしたというのだろう。普通に話をしていたつもりだった。あの時の椎名さんはとても不機嫌で、これまで以上に不可解な行動をとった。合コンの夜の中田さんを思い出させる強引さが怖かった。
これから仕事で付き合う上で、どう接していったらいいか困ってしまう。

初めて男の人に好きだと言われた。でも嬉しいとは思わなかった。そんなの絶対嘘に決まってる。椎名さんほどかっこいい人は私なんて眼中にないはずだもん。もっと綺麗で素敵な女性しか相手にしないだろうから。

私はアサカグリーンの花屋に向かって歩き出した。

気を遣ってるわけじゃない。私の仕事でもない。それでも横山さんの役にたつなら……。

「あの、すみません」

花屋の店員とロゴ入りTシャツを着た社員さんが同時に私を見た。

「こちらの会社の装飾のカタログってありますか?」