「さっきだって、ちょっと料理を褒められたくらいで浮かれちゃだめだよ。下心があったらどうするの」

少しでも優しくしたら君はすぐに落ちそうで。

「前にも言ったけど、夏帆ちゃんみたいな子は簡単に利用できるんだから」

惚れさせたら何でもやってくれる気がしてしまう。俺以外の男にそんな隙見せんなよ。

「どうして……またそんなこと言うんですか?」

夏帆は今にも泣きそうだ。

「椎名さんは私のことが嫌いなんですか?」

「は?」

「いっつも私に嫌なことばかり言う……理解できないことを言う……からかって楽しんでる……」

「自分が俺に嫌われてると思うの?」

「椎名さんみたく輝いてる人は、地味でブスな私なんてストレス発散相手って程度にしか思わないから……」

何でそうなるのだ。卑屈にも程がある。
俺が輝いてるだって? そうさせてくれたのは誰だと思ってる。輝いてるのは俺よりも夏帆の方じゃないか。

「椎名さんを忘れたままだから、何度も意地悪なことを言うんですか?」

「…………」

「どこで会ったんですか? バイト先ですか? 学校ですか?」

「…………」

「私が嫌いってはっきり言ってくれたら、辛い言葉を言われても少しは受け流せるのに……」

俺は夏帆に辛い思いをさせていたのか。嫌われてるのは俺の方じゃないか。

「嫌い」と、そう言えば君が楽になるのなら……。

「嫌い……じゃない」

「そうですか……え?」

言えるわけないだろう。嫌いだなんて嘘はつけない。

「嫌いなわけない。夏帆ちゃんが好きだよ」

俺の告白に夏帆は目を真ん丸に見開いた。
言ってしまった。ゆっくり攻めると決めたばかりなのに。