「弊社で新しくお店をオープンするんです。その装飾を考えてて参考にしたくて」

本当はさっきの話聞こえてたから知ってるよ。あの男に関することだってすぐに分かる。

「夏帆ちゃんは気を遣いすぎなんじゃない?」

「え?」

「それ、自分の仕事じゃないでしょ。君は総務部であってレストラン事業部じゃない」

「…………」

夏帆はぽかんと口を開け、間抜けな顔で俺を見ている。

「それとも、総務部は新店舗のデザインに口を出せるほどの力でもあるの?」

「…………」

「君が頼まれたわけでもないのにそこまで考える必要はないんじゃない? 余計なお世話かもよ」

止まらない。この子を傷つける言葉が止まらない。

「椎名さん……?」

夏帆は不安と恐怖が混ざった目で俺を見る。

「さっき食堂で聞いてらしたんですね……別に気を遣ってるつもりはなくて……ただ横山さんの役に立つかなって」

俺から目を逸らして下を向いてしまった。

「確かにカタログを貰ってきてって頼まれたわけじゃないんです。私が口出すつもりもなくて……ただ横山さんが必要なときにすぐに渡せたらって……」

あの男の名を2回も聞かされていい気はしない。

「ごめんなさい、急に無理言って……」

意味なく怒っているのは俺の方なのに、夏帆が申し訳なさそうに謝る。
こんな空気にしたかったわけじゃない。ただ俺のくだらない嫉妬をぶつけてしまっただけだ。

「夏帆ちゃんさ、何でも自分がやってあげようなんて思わなくていいんだ」

「え?」

「優しさに付け込んで利用するやつだっているんだから。この間の中田みたいに」

「中田さん?」

「はっきり断らないのをいいことに、ぐいぐい君を連れてくんだ」

「そんな……こと……」