「これ持ってあげようか? 道具は全部車に置いたから手ぶらだし」
「大丈夫です。落ちやすいだけで軽いので」
夏帆が足元の段ボールを持ち上げた瞬間、大量の長い筒状のポスターがバランスを崩し床に落ちた。
「あっ」
「ほら、やっぱりいくつか持つよ」
言ったそばから落とす夏帆に笑いながら、ポスターを拾ってエレベーターに乗り後ろから夏帆も乗った。
「ありがとうございます。でもお仕事は?」
「今日の外回りの作業は全部終わり。今から農場に戻ってデスクワーク」
その前に遅い昼飯を食べたいけれど。
「椎名さんってこのお仕事長いんですか?」
「この業界は3年たったとこ」
「3年ですか……」
夏帆の顔を窺う。
仕事始めたのは君と同時期なんだって。俺たち3年前にも会ってるんだぞ。
「素敵なお仕事ですよね。植物って癒されますもん」
「……ありがとう」
こいつ全然思い出してないな。
まあいいか。『素敵な仕事』だと言ってくれたから。
夏帆について倉庫らしき部屋に入った。キャビネットにポスターを置くと、これで俺と別れられると思ったのか小さく溜め息をついた。
連絡先教えてよ。
そう口を開きかけたとき「あの、アサカグリーンさんってお花も扱ってますよね?」と聞かれた。
再び不快感が湧き上がる。それは空腹だからだけではない。
「まあ、花屋もいくつか店舗あるし、生花装飾もやるよ」
「お花のカタログとかってありますか?」
「今すぐいる? 手元には観葉植物のカタログしかないんだけど」
夏帆に対して出てきた声は自分でも驚くほど不機嫌で攻撃的だった。
「あ、いえ……後日でも大丈夫です……」
「カタログをどうするの?」