落ちる恋あれば拾う恋だってある

「夏帆ちゃんはお昼食べてきたの?」

「いえ……頼まれた買い物です。お昼は今からです」

「どっか食べに行くの?」

「会社に戻って食べます」

「店に行って食べないの?」

「お弁当持ってきてますから」

「そう……残念」

椎名さんは伏し目になる。何が残念なのだろう。

「じゃあ送ってくよ。乗って」

「いえ、大丈夫です。歩きますので」

「俺も今から早峰フーズに行くから」

「え?」

「今月分のメンテナンスに伺います」

ああ、そういえば月2回になったんだった。

「乗ってよ」

椎名さんは笑顔で助手席のドアを開けてくれた。
迷ったけれど人通りの多い道を数分歩くよりも乗せてもらうことにした。

「ありがとうございます……」

「どういたしまして」

椎名さんはシートベルトを締め、車は動き出した。
車内は植物と花の香りがする。

男の人の車に二人きりで乗ったのは初めてだ。それが仕事中の社用車だとしても緊張してしまう。掴み所のない椎名さんが相手というのが余計に。

椎名さんは信号で止まる度にファイルの中から伝票や地図を出してスケジュールを確認しているようだ。

仕事はちゃんとするんだな……。

本気なのかふざけているのか分からないこれまでの言動と、真面目な仕事ぶりが結びつかない。

ふいに椎名さんが私を見た。何度目だろう。こうして目が合うのは。私は慌てて目を逸らし、椎名さんはすぐに前を向いた。早く会社に着いてと願う私の横で椎名さんが笑う気配がした。

「夏帆ちゃんさ、俺のこと思い出してくれた?」

「すみません……どこでお会いしたのかまだ思い出せなくて……」

学生の時もバイトも、椎名さんと会った記憶がない。

「そうなんだ」

「すみません……」