落ちる恋あれば拾う恋だってある

「うん。あのさ、メイク教えて」

「え?」

「メイクの仕方、教えて」

美容のプロが身近にいる。なら直接教えてもらえばいいのだ。千秋なら専門学校で美に関する全てを学んでいる。
華やかな業界で働く妹が自慢で、羨ましくもあった。私とは違う、とずっと美容や仕事の話は避けていたけれど。

「…………」

「千秋?」

千秋はぽかんと口を開け私を見ていた。その目がだんだんと潤み、涙がこぼれた。

「どうした!?」

「お姉ごめんね……ずっとお母さんと私のために働いてくれて……」

「何……いきなり」

「自分のことは後回しでオシャレもできなかったよね」

「そんなことはないけど……」

「来て。見本でやってあげるから」










新しい服に合わせて買ったヒールの高い靴を履き、早峰フーズのエントランスを靴音を響かせ歩いた。エレベーターが1階まで下りてくるのを待つ間、横に立つ社員は私を凝視していた。
エレベーターに乗ると密室の中で回りの視線を強く感じる。

いくらなんでも急に変わりすぎたかな? 地味な私が調子に乗ってるって思われてるかも……。

誰よりも違和感を覚えているのは私自身だった。

「おはようございます……」

「わあ、夏帆ちゃん!」

総務部のフロアに立つと真っ先に丹羽さんが駆け寄る。

「とっても可愛い! ま、私は素材の良さを知ってたけどね」

恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じた。

少しずつ私自身を変えていきたい。美人になれないのは分かってるけど、せめて人並みの女性に……。
鏡を見て自分を地味で暗い不細工な子だと思いたくない。仕事も恋愛も楽しめるようになりたいから。