「頼むよ。洋輔がいると女の子がテンション上がるから」

「俺のテンションは上がらないんだけど」

「そう言わずにお願い!」

「分かったよ。まだ仕事中だから少し遅れるよ」

通話を終えて無意識に溜め息をついた。
合コンなんて全く興味がない。真面目に付き合いたいと思っている女にはきっともう会うことはないと思う。だから恋愛はしばらくいいんだ。今は仕事関係以外で新しく付き合いを広めたいとも思えなかった。

とにかく仕事が楽しくて仕方がない。初めは興味がなかった草花にも、携わるうちに資格まで取るほど好きになってしまった。
そう思えるようになったのはあの子のお陰だ。

もしも、もしもまたあの子に会えることがあったなら……。





会社所有の農場に社用車を置き、電車に乗って店に着いたのは合コンが始まって一時間以上たった頃だ。乗り気ではないが、行くと言った以上は楽しんでいるふりでもしなければ友人に悪い。

「洋輔くんはそこ座って」

友人の彼女に促されて座った席の向かいには同じく大学の友人の中田がいた。一通り参加メンバーの顔を見渡し、中田の横に座る女の顔を見た瞬間俺は固まってしまった。

「北川……夏帆……」

3年前俺の背中を押してくれた、もう会えないと思っていた女が目の前に座っている。
黒縁メガネをはずし、明るい服を着て、明るい化粧をした夏帆はあの時より何倍も綺麗になっていた。
それでも人違いなどではないと確信できる。見た目の印象は変わっても、あの時と変わらず中田と面白味のない会話をして、俺と目が合うと慌てて逸らすのだ。
すぐ隣に座って話しかけてくる女よりも、中田に絡まれて困っている夏帆に興味を引かれていた。