落ちる恋あれば拾う恋だってある


「それも大丈夫。今はちゃんと見えてるよ」

「でも病院に行きましょう」

「大丈夫だって」

握った手とは反対の、怪我をした手が私の頬に触れた。私を守ってくれたこの手が愛おしい。

「夏帆ちゃん!」

丹羽さんが人混みを掻き分け走ってきて私の前に膝をついた。

「大丈夫?」

「はい……私は全然……」

「夏帆ちゃん膝が……腕も!」

「え?」

私の両腕と膝にも擦り傷があった。ストッキングは伝線している。宇佐見さんに体当たりされて倒れた時にできた傷かもしれない。

「顔も赤いし、冷やした方がいいかも」

「はい……」

その時社員が道をあけて、秘書室の宮野さんがこちらに歩いてくるのが見えた。
ついに私が警察に事情を話す番かな。宮野さんは呼びに来てくれたんだ。

「北川さん」

宮野さんは私の前に立つと丹羽さんと同じく私の目の高さになるよう膝をついた。普段の宮野さんからは想像できない姿勢に、こんな思いやりもあるんだなと感心してしまった。

「会社としては大事にしたくはありません。できればこのまま警察の方にはお引き取りいただきたいと思っています」

「は? 夏帆ちゃんと椎名さんが怪我させられたのにですか?」

怒りを露にしたのは丹羽さんだった。

「怪我の治療費は会社でお支払いします。ですからこのまま宇佐見さんの処分も会社に任せていただきたいのです」

「そんな……そんなに会社の面子が大事ですか!?」

「申し訳ありません」

「宇佐見さんはどう見たって頭おかしくなってますよね!?」

丹羽さんは宮野さんに怒鳴る。宮野さんも辛そうな顔を見せるから、彼女にとっても本意ではないことが分かった。

「それは役員の皆様のご意思ですか?」

私は真っ直ぐ宮野さんの顔を見た。