辺りを見回した。この騒ぎで早峰の社員が私たちを見ているけれど、誰一人助けてくれようとする人はいない。
「誰か……」
「夏帆!」
宇佐見さんが握った破片を振り下ろそうとしたから、私を庇うため椎名さんは左腕で宇佐見さんの手を受け止めた。
「椎名さん!」
椎名さんの腕と宇佐見さんの手がぶつかった。その衝撃で宇佐見さんの手から破片が離れ、勢いよく落ちて砕けた。
左腕を押さえ椎名さんは立ったまま動かなくなってしまった。その隙に宇佐見さんは私との距離を詰めた。
「夏帆! 逃げろ!」
椎名さんの怒鳴り声に私は駆け出した。早峰フーズのビルの中へ。
宇佐見さんも私を追ってくる。止めようと椎名さんが腕を伸ばしたけれど、宇佐見さんはその腕を簡単にすり抜ける。
「誰か!」
私はエントランスを駆けた。
背中に衝撃を感じて勢いよく前に倒れた。地面に手をついたまま振り返ると、髪をバサバサに乱した宇佐見さんが私を見下ろしている。肩で息をした宇佐見さんに体当たりされたようだ。
エントランスに悲鳴が響いた。
宇佐見さんは私を跨ぐと髪を掴み、乱暴に私の体を仰向けにするとそのまま馬乗りになった。平手で強く頬を叩かれた。一瞬目の前が真っ白になる。今度は手を握り締めたのを見て殴られると思った時、私の体の上から宇佐見さんが消えた。
ゆっくり体を起こすと、エントランスに居た男性社員二人が宇佐見さんを床に押さえつけていた。二人がかりでやっと暴れる宇佐見さんを押さえておけるようだ。
「やめろ! はなせ! お前なんか消えればいいんだ!」
エントランスに響く怒鳴り声と叫び声。宇佐見さんが私に向かって放つ言葉はまるで呪いの言葉だ。



