「あの……」「あのさ……」
二人の声が重なった。そうして二人で笑った。
「何?」
「椎名さんが先にどうぞ」
「いや、あのさ……」
珍しく椎名さんが口籠っている。
「何ていうか、渡すものがあるんだけどさ……」
「はい」
椎名さんは助手席の開いた窓から手を車内に入れると、中から淡く薄い布と紙で包まれた物を取り出した。
「夏帆ちゃんにあげる……」
椎名さんの腕に抱えられたそれは花束だった。ピンクのガーベラを中心に、赤や淡い青色の花に囲まれ丸みを帯びた可愛らしい花束だった。
「わあ……きれい……」
差し出された花束を受けとると思わず声が出た。椎名さんからこんな素敵なものをもらえると思っていなかった。
「会社の人に作ってもらってさ。俺一応花屋だし、一度くらいプレゼントしなきゃなって……」
椎名さんは私の顔を見ずに言った。こんな風に照れている姿はきっと貴重だ。
「ありがとうございます。とっても綺麗で可愛いです」
花束を優しく抱き締めた。私のための花束がこんなにも嬉しいものだなんて初めて知った。
「今までこんなことしたことないからすげー恥ずかしいんだけど……」
椎名さんは耳まで真っ赤だ。こんな椎名さんを見れて私まで照れてしまう。
「夏帆ちゃん、好きだよ。俺と付き合って」
赤いまま真面目な顔になり、私を真っ直ぐ見据えた。
「椎名さん……私も……」
「ふざけないでよ」
突然横から聞こえた声に椎名さんと二人で声のした方に顔を向けた。そうして私は目を見開いた。
目の前には髪が乱れ、疲れた顔をした宇佐見さんが立っていた。手には汚れたビニール袋を持っている。
「どうして?」
停職処分のはずなのに、どうしてここにいるの?



