「椎名さん、あの……」
「夏帆ちゃん、今度飯食いにいかない?」
「は、はい!」
「金曜の夜暇?」
「大丈夫です」
「じゃあさ、迎えに行くよ」
「椎名さんが?」
「うん。早峰の定時の頃に」
「はい。ありがとうございます」
「そのあとも帰さないけどいい?」
「え?」
「もう消えたころでしょ?」
何が、とは言われなくてもわかった。
椎名さんは言っていた。修一さんに付けられたキスマーク消えたら新しく付けると。
「週末はずっと予定がないので……大丈夫です……」
「え? 週末ずっといいの? そんなに俺の体力もつかな?」
「そういう意味じゃありません!」
顔を真っ赤にしてスマートフォンに怒鳴る。耳元で椎名さんが笑っている息遣いが聞こえる。
「じゃあね」
「はい。また」
電話が切れた。
言いたいことははっきり言えなかった。でも金曜日に今度こそ言おう。
椎名さんが私を想ってくれたように、私だって椎名さんのお陰で気持ちが楽になれたから。
ありがとう。そして、好きですと。
◇◇◇◇◇
「あれ? 椎名くんが本店に来るなんて珍しいね」
アサカグリーンの本社ビルの1階は花屋になっている。そこの店長が珍しく店舗にまで顔を出した俺に声をかけた。俺より少し年上のさばさばとした性格の女性店長だ。
「うっちーに会いに来たんですけど、店に下りたって聞いたから来たんです」
「うっちーと呼ぶなって何度言わせる気だ」
店舗の奥から不機嫌な顔をした内田が出てきた。
「いいじゃんよ。そう呼ぶと可愛いイメージになるし。そんないっつも眉間にシワ寄せてたら女の子にモテないよ?」
「お前みたく女の機嫌取ったりするのは御免だから」
「だからこの間は悪かったってば」



