落ちる恋あれば拾う恋だってある


椎名さんと目が合ったけれどすぐに逸らされた。いつもなら笑ってくれるけれど、お互いの上司がいるこの場では軽はずみな行動はできないのだろう。

椎名さんの前にお茶を置くと「ありがとうございます」といつもと違う硬い口調で言われた。一瞬だけ見せる笑顔もいつもと違う。

「失礼致しました」

頭を下げて会議室を出ようとすると最後に椎名さんと目が合った。けれど彼はすぐに話に聞き入り、テーブルの書類に目を落としてしまった。仕事中の椎名さんは真面目だ。それだけに今回のことは申し訳なく思う。少しだけ胸が苦しくなった。





退勤の時間を見計らって椎名さんに電話をかけた。以前に声が聞きたくて電話をかけたときは夢中だった。でも今は緊張で潰されそうだ。プライベートの番号にかけるのはこれが初めてだ。

「もしもし」

「……あの、き、北川ですけど」

「ふっ……なんでどもってるの」

電話の向こうの椎名さんは笑っている。こんなに緊張するはずじゃなかったのに。

「どうしたの?」

「あの……」

どう話したらいいだろう。まずは私も謝罪だろうか。椎名さんが綺麗に手入れしてくれているのに弊社の社員がすみませんって?

しばらく黙っていると椎名さんからを開いた。

「今日ごめんね、会社で恐い顔してて。内容が内容だけに俺も余裕なくて」

「いえ、本当にすみませんでした」

「なんで夏帆ちゃんが謝るのさ」

「まさか植物にあんな酷いことするなんて」

「ほんとだよねー。俺聞いてて超腹立ったもん」

「すみません」

「だから夏帆ちゃんが謝らなくていいんだって」

「…………」

「…………」

なんだかいつも椎名さんに謝っている。
そうじゃない。そんなことが言いたいんじゃない。