まだ付き合ってるわけじゃないのに、こんなこと聞くなんてウザいよね。だけど不安になってしまう。まだ私が知らない椎名さんを。
「はい」
椎名さんはスマートフォンを私に渡した。
「俺の連絡先登録しといてよ。プライベートのやつ。誰にでも教えるわけじゃないから」
「はい……」
誰にでも教えるわけじゃない。でも私には教えてくれる。それを嬉しいと思ってしまった。
私のアドレス帳に新しく椎名さんが追加された。
「俺に女がいるかもって嫉妬してくれたんだ?」
意地悪く言うから私は「そうですよ」と答えた。素直な言葉に椎名さんの顔が赤くなったのを見逃さなかった。
「今日はどうする?」
「え?」
「もう終電ないよ」
スマートフォンを見ると確かにもう終電がない時間だ。
「タクシーで帰ります」
「ここに泊まっていきな」
「え!? か、帰ります!」
「タクシーじゃ料金すごいことになるよ。朝になったら車出すから」
「でも……」
「何もしないから」
椎名さんは困ったように笑う。
「男で嫌な思いした子をすぐ襲わないから。俺そこまでクズじゃないよ」
「じゃあ……お願いします……」
消え入りそうな声で答える。
「ベッド使っていいよ」
「いえ! 大丈夫です!」
「そう? 俺床で寝るよ?」
「ほんとに大丈夫です! 私が床で寝ますので!」
「そっか。じゃあ俺風呂入ってくるね。夏帆ちゃんも入る?」
「大丈夫です! お気になさらず!」
焦る私に笑顔を向けながら椎名さんはバスルームに行った。
母に『友達の家に泊まる』とLINEする。だいぶ遅い連絡になってしまった。けれど就職してからは母も大人扱いしてくれるので外泊に抵抗はなくなっていた。



