就活中に何度も通った建物の通路でわたしは若い男性と会話したことをぼんやり思い出す。
「すみません……私なんかがそんなこと言って生意気でしたね……」
「そんなことないよ」
椎名さんは「ふっ」と突然笑いだした。
「この会話二回目なの」
「え?」
「全く同じことを夏帆ちゃんは言ったんだよ。私なんかが生意気にって」
恥ずかしくて顔が熱くなる。
椎名さんの人生を動かす言葉を言ったなんて自分が信じられない。あの時の人とこうして再会するなんて思わなかった。
「キラキラしてた夏帆ちゃんが忘れられなかった」
思わず椎名さんの顔を見た。私に微笑みかける椎名さんはいつも以上にかっこよく見えて恥ずかしさに顔を逸らしてしまった。
今の私は椎名さんにキラキラしてるなんて言ってもらえるような人じゃない気がして。
「君は早峰に採用された。だから君は必要だよ」
私を見る椎名さんの目は真剣だ。
俯く私に「ありがとね」と優しく言った男性の声を思い出した。
「私は必要……でしょうか?」
「うん。頑張れ」
目頭が熱くなる。椎名さんはいつだって私のための言葉をくれる。
「それから、俺が付き合いたい女は一人だけ」
手で私の頭をポンポンと軽く撫でた。その慣れた仕草に私の顔が熱くなった。
「じゃあ台車と予備の鉢を取ってくるね」
「お、お願いします……」
椎名さんは通路の先の階段を軽い足取りで下りていった。
あんな態度はだめだって言ったのに。また頭の中があなたでいっぱいになってしまう。初めて椎名さんに会った3年前のことを思い出してしまっては余計に。
早峰に採用が決まったときに「おめでとう」と言ってくれた。見ず知らずの私の内定を喜んでくれたあの優しい笑顔は今でも変わっていないのだ。



