愛したのが君で良かった




『なにー?』


なんでもない顔をして悠哉が私たちの元にやってきた。


正確に言えば、呼ばれたから、ここに来た。



…なんて、冷静に言い直してる場合じゃない!!





『悠哉、今日もパン?』


麻奈美はニヤケ顔で悠哉に問いかけた。



『うん、なんで?』


麻奈美の言葉、麻奈美のニヤケ顔の理由を知らない悠哉はクエスチョンマークを並べた顔で麻奈美を見つめる。




『ちょうど良かった、ね、希子?』




ちょ……本人の前でそんな返事を求めないでよ!!


麻奈美の言葉に、悠哉はキョトンとした顔で私に視線を変える。



重なり合う視線、一気に胸の鼓動が速くなる…





『のり、何?』


これから自分が何を言われるのか、何をされるのか、分かってないんだよね…この人は。


だからこんな顔をして、そんな風に問いかけてこれるんだよね…





『………別に』


あー私がもっと素直な子だったらな…


“作ってきたからどうぞ”とか言っちゃってたり。


もっと可愛げのある子だったらな…


“食べてみて”、そう言えたかもしれないのに。


でも、私はやっぱり今みたく素直でも可愛げのある子でもない…





『ふーん』


悠哉はそう言って、でも私から視線を反らさない。


悠哉のその視線が向けられてること、それが痛くて、苦しくて。


でも、同時に私だけを見てる、それが恋心がないにしても、私だけを見てる、それが何よりも嬉しくて。




『のりー、今日、アスパラの肉巻き?』


悠哉は笑いながら、私にそう問いかけてきた。




『ほら!』


悠哉の問いかけに、麻奈美も“お弁当を渡せ”そう言ってるかのように、私の腕を小突いた。





『……………』



でも、私は何もいえなくて。

なにも動けなくて。


見計らった麻奈美がわたしのカバンからもう一つのお弁当を出した。





悠哉の視線がそれに変わり、わたしも悠哉からお弁当に視線を移した。




『悠哉、これ、希子から』


麻奈美が悠哉に手渡そうとしたとき、




『鈴木もこういうことすんだなー』


クラスの男の子が、ニヤけながらそう言った。



『……え…?』



『俺、鈴木が二個とも食べるんだと思ったよ』



その言葉に私は固まる。



『だって、鈴木のその体型なら、弁当2個でも余裕だろ?』


でも、その子は笑っていた。



だから、悲しかった、悔しかった。


そして、後悔した。





『あんたさ、そんなこと言うとか失礼なんじゃない!?』


何も言えない私の代わりに麻奈美がムキになってそう言い返した。




『あ、別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど。
 てか鈴木のこの体型は誤魔化しようがない上に、そう思われても仕方ないじゃん?』



ほらね?

デブってね、いつもこういう人生なの。



いつもこんな風に誤解されて、バカにされて。

好きな人の前でもこんなこと言われちゃってさ。


本当に最低。
本当に最悪。


なーんにもいいことない人生。



諦めても諦めても、諦めきれてなくて、またこうやって卑屈な考えしかできなくなるんだ。





私は怖かったけど、目の前の悠哉の顔に視線を向けた。


そこには予想通りの悠哉の困った顔があって。



あーぁ…悠哉にまで同情される人生、なんだね、私の人生ってさ…






『………違うから』



私は麻奈美が持ってるお弁当箱をなかば強引に取り上げ、そしてカバンに押し込もうと…





でも無理矢理カバンに入れようとしたから、お弁当箱がカバンに入らず、虚しく床に落下していった。