『のりー、お前さ、弁当小さすぎじゃね?』
昼食の時間、親友の麻奈美と机を寄せて、いざ、お弁当を食しよう、そう思った矢先に現れた男。
『…………』
私は無視を決めて、お弁当を食べ始めた。
『おーい』
でも、その男は私の顔を覗き込むようにして、そう声をかけてくる。
『へー、無視ですか、態度わる』
その男はそう言って、私の一番大好きなハンバーグをつまんで、そして自分の口に放り込んだ。
『………は…?』
『んー…うま!』
…そんな感想いらないから!
私のお弁当を返してください。
『希子ねー毎朝、早起きして、自分で作ってんだよー』
親友の麻奈美は呑気にその男に言って。
その男は“驚いた”、そう言わんばかりの顔をする。
『…あのさ、ずっと思ってたんだけど!
さっき食べたハンバーグ、私のおかずなんだけど!
毎日毎日、私のお弁当のおかずとって、すっごい迷惑なんですけど!』
私は大好きなハンバーグを取られたことものムカついたけど。
でも、一番いやなのは、私の言葉を聞いても、それでもこんな風に余裕綽々な態度でいること。
『あっそ。
俺、アスパラの肉巻きも好きなんだよなー。
ってことで明日もよろしく、お弁当係!』
…は?
満面の笑みの彼に反して、私の顔は引きつっていく。
『何、言ってんの!
私、アスパラ嫌いだから作んないから!!』
でも、彼はそんな私の言葉にもクスッと笑った。
その時の顔がカッコよくて、可愛くて。
だから、私はいつも、結局、お弁当を作ってしまうんだ。
『うまかった、サンキュ』
彼はそう言って、他の男友達と一緒に教室から出て行った。
『……あいつ~…』
はぁ……口ではそう言ってても、好きな人に“うまかった”なんて言われたらさ、もうダメだよね?
『……はぁ……』
思わず深い溜息が出てしまう。
『恋する乙女はムカついたり、嬉しくなったり、大変だね~』
麻奈美の言葉にドキッとして、私は麻奈美を見つめた。
『…バレバレ?』
『もっちろん!希子が悠哉のこと、好き』
そこで私は麻奈美の口を手で塞いだ。
突然口を塞がれた麻奈美は苦しそうで、私は手を麻奈美の口から手を離した。
『…げほ……』
『あ…麻奈美、ごめん…。
軽く抑えたつもりだったんだけど…』
『…平気』
『ごめんね……つい名前に反応しちゃって……ごめんね…』
『いいよ、あたしも勝手に名前出したし、言っちゃったし…』
そう。
私、親友にも話してなかった。
自分の気持ち。
だって、悠哉だって、他の男の子と一緒でしょ?
私なんかが、“好き”とか言っても嬉しくないよね。
きっと、困っちゃうよね…
それで、きっと今見たく接してくれなくなるよね…
そんなのいやだもん。
きっと誰かに話せば、私はもっと彼を好きだと思ってしまうだろうし、麻奈美以外にもバレたら大変…
彼も迷惑する、だからこの想いはずっと自分の心の中で封印してきた。