父さんは芥川賞を受賞したことのある有名な作家で、
 母さんはそんな父さんと私を支える優しい人だった。


 「レウ、誕生日おめでとう!やっぱり子供の成長は早いな」

 「十二歳か〜、もうすっかりお姉さんねぇ」


 その日、五年前の六月三十日は、誕生日プレゼントを買ってもらうため、少し街に出ていた。

 空は暗い灰色の雲に覆われてるけど、私はそんなの気にもせず、鼻歌混じりに父さんと母さんに挟まれるようにして歩いていた。


 「えっへへ〜」


 右手には父さんからのプレゼントである児童書、左手には母さんからのプレゼントである箱に入ったアンティークドール。

 私はたまらなく嬉しくて、顔が緩みっぱなしだった。

 




 「きゃあああああーーー!!!」


 急に後ろの方から女性の悲鳴が聞こえた。

 その声に驚いて、私達を含めた通行人の数人が後ろを向く。


 そこには、白い雨合羽を身に纏い、鋭い刀を手にした人が、物凄いスピードでこっちに向かって走ってきていた。



 ―――もしかして、通り魔ってやつ?!



 「……逃げろおおお!!!」


 父さんの声を合図にするように、全員が悲鳴や奇声を発しながら逃げてまどう。