…ある日の昼休み、屋上であたしは一人弁当を食べていた。いつもなら、(今となっては忌まわしい)彼氏…岸田と一緒に食べていたのだけれど、「あの日」、アイツはアイツの友達とかなり盛り上がって喋っていたから、さすがに邪魔をすることは出来なかった。…だから、仕方無く屋上で一人で食べていた。今は少し肌寒い秋だから
カップルとかもかなり暖かい日じゃないと来ない。しかも、その日は曇天だった。だから、あたし一人だけだったから気は楽だったし、すぐに弁当を食べ終えてしまった。でも少し体が冷えたから、教室に向かった。…この後起こることが神様の悪戯だったのか、それとも単なる偶然だったのか、あたしには分からないけれど。(これが悪戯だったというのなら、随分性格が悪いと思う。)
教室のドアは開けっ放しで、正直、中の会話はよく聞こえる状態だった。廊下を歩いて後ろのドアから入ろうとすると、中から大きな声で喋っている岸田の声と美濃部の声が聞こえてきた。
「…にしてもさ、お前あいつと親友として接するなんかよく出来るよなあ。」
その言葉に足が竦んだ。
「それを言うなら、あんたこそじゃないの?青砥なんかと付き合うとかさ。まあ、それもこれも全部嘘、だけどね〜!」
「…え……?」
あたしは目眩がした。けれど、それが本当のことなのか確かめるためにフラフラしながら教室に入った。
「…ねぇ…嘘って…どういう…こと…?」
二人はあたしの存在に気付き、「しまった…!」って顔をした。けれどすぐに二人は笑った。…でもそれは、今まで二人が見せたことが無い歪んだ笑顔だった。その顔を見た瞬間、背筋が凍るような感覚を覚えた。
…教室に、いる筈だった。…けれど、そのときは、そのときだけは、教室にいる実感が無かった。
「あーあ、バレちゃったよ。ま、いつかはバラすつもりだったんだけどね…。ねえ、岸田?」
「まあな。でもまさかバレるとは思わなかったぜ。まだまだ騙して遊んで楽しんで、最後バッサリ捨てて、どん底に突き落とすつもりだったんだけどな。」
…教室の中は嘲笑の渦。
…言葉を失った。…と言うより、言葉が出なかった。色んなモノがグチャグチャに混ざって気持ち悪くなった。
それでも、なんとか声を振り絞って言った。
「なんでよ…?祐輔…麻友…。どうして…?」
…すると二人は鋭い目つきになって、
「ちょっと止めてよ、『麻友』なんてさ。」
「お前なんかに名前呼ばれたら俺の名前が汚れるじゃんか…。マジでやめろ。」
あたしは俯いた。
「でも…麻友、ずっと…ずっと、あたしの友達だって…親友だって、言ってたじゃん…!」
…すると。
「…そんなこと言ったっけ?」
「…え…?」
あたしは驚いて顔を上げた。
髪をくるくるといじりながら麻友は言った。
「まあ、言ってたとしても、どーせ嘘だけどね〜!そんなの嘘に決まってんじゃん!誰があんたなんかと!バカじゃないの!?…つーかさ、あんたずっと私のこと親友だと思ってたわけ!?アハハッ!おめでたい奴!私はそんなのちょっとでも思ったこと無いよバーカ!」
「……!」
「…何その顔?『あたし可哀想…!』みたいなさ…。マジでムカつくんだけど!悲劇のヒロインぶんなよ、ホントマジでキモい!」
さすがに腹が立った。そんなこと思ってないし…!けどなんでよ…?なんで言い返せないの?何か言ったら暴力でも振るわれると何処かで思ってるから?とにかく臆病なあたしが一番ムカつくよ…!
「…じゃあ祐輔は…!?あたしに告ったのはあれは…!?」
「あ?あ〜、あれも嘘だけど?」
「…何か悪いことでも?」みたいな顔。
「……なんだ…。あたしのこと、好きってわけじゃなかったんだ…。」
「…クク…ハハッ!誰がお前なんかを好きになるかよ!」
「…!」
あたしは睨みつけた。…許せなかったから。
「いやいや、何睨みつけてんだよ?騙される方が悪いんだろうが…!」
「……。」
あたしは再び俯いた。
「分かった?とりあえず、あんたとのお友達ごっこはもう終わりよ!」
あたしは気圧され、項垂れた。
「………。」
すると美濃部は嘲笑うかのように、
「…何?言葉も出なくなっちゃったの〜?弱いわね〜。」
あたしはその言葉にただただ悔しさを噛みしめることしか出来なかった。
キーンコーンカーンコーン…
「あ、予鈴だ。…ほら、さっさと自分の席に戻んなよ。うっとーしいし、ウザいし、あんたが近くにいるとあんたの菌がこっちに飛んできてくっつくからさー…。」
…仕方なく、あたしは自分の席に着いた。そこからしばらく授業を受けてはいたものの、ちっとも頭に入らず…二人の言葉がずっとあたしの頭の中で何度も何度も繰り返されていた。