だんだんと目線を上へ上へずらしていく。
「え……」
目の前に広がる景色に、息を呑んだ。
遠くに見えたのは、あの総合病院だった。海という名の女の子が眠っていた、あの病院だ。
――まさか。
「時々凪雲先輩が見ていた場所って……」
あの、眠っている女の子がいる、総合病院だったの?
ひとつ、彼のことを知れた気がした。
まだ私の予想だけれど、おそらく当たっているだろう。
だから凪雲先輩が遠いどこかを展望している時、涙ぐんでいたんだ。
「それほど、大切な人なのかな……」
海という女の子のことを好きだから、ずっと待ち続けているの?苦しそうな表情をするの?
眠っているあの女の子が、羨ましい。
そういう嫉妬は、不謹慎だ。凪雲先輩も、会長も、あの女の子自身だって、眠っていることこそが哀愁の元凶かもしれないのに。
ダメだなぁ、私。
私は彼のことが好きだけど、彼には幸せになってほしい。それが、私の一番の願い。
また弱気になりそうで、慌てて空を仰いだ。涙のような透き通る群青は、汚れた心を真っ白にしていく。
「大丈夫」
魔法の言葉を、空高く唱えた。
凪雲先輩が傷つく姿を、もう見たくない。
変わらなくちゃ。変えなくちゃ。私が、私の手で。
恐怖心が消えないままでいい。弱くたっていいんだ。
私は、彼が打ちひしがれている現実を受け止める。
その準備が、やっと、整った。
「凪雲先輩」
私、あなたに踏み込みます。
あなたの心に、ゆっくりと手を伸ばす。
私がいるよ。
何があっても、離れていかない。
そばにいる。
そう伝えるように、近づいていく――。
騒がしかった文化祭の幕が下ろされた。
自由参加の後夜祭には出ず、若葉公園へと走っていった。
「凪雲先輩!!」
公園の手前で、既にベンチで黄昏ていた凪雲先輩に叫ぶ。
「桜ちゃん、久し振り。どうしたの?」
久し振りに私へ届けられた声音は、わずかな驚きと、相変わらずの切なさで満ちていた。
心臓がキュゥ、とへんてこな鳴り方をして、縮こまる。
「あの、私……っ!」
始めの一歩で、公園に入る。
また一歩、また一歩、距離を詰めていった。



