「今の桜は、ただ立ち止まったまま、怖い怖いって震えてるだけじゃん」
あと数センチ進めば、彼の心と向き合える。私はずっと、その瞬間を待っていた。
抗おうともしないで、立ち向かおうともしないで、心の震えが止まるのをひたすら待ってるだけ。
「嫌われたらどうしようって怖気づいて、前進すること自体を悪い方に捉えてるんじゃないの?」
強気な問いかけに、こくりと首を縦に動かした。
確かに、緋衣ちゃんの言う通りだ。
前進しても不幸になる。意味などない。勝手にそう意識していた。
とんだ臆病者だ。
「そんなの、初恋の男の子を待っていた時の「待ち方」とは違うよ。ただ逃げてるだけだよ!」
緋衣ちゃんの両手が、私の頬をパンッと強く叩いた。メロンパンの入った袋の持ち手が、肘当たりまでずり落ちる。
突然顔を挟むように押し付けられ、私は目ん玉を丸くさせる。
「桜、言ったじゃん。『私、頑張るね』って。あたしも言ったよね?『とにかく頑張れ』って」
「う、うん……」
「もう一回、言ってあげる。桜は、桜がしたいことをとことん『頑張れ』!それがどう転ぶかなんて、相手にしかわかりっこないんだから」
勇気が足りない?覚悟足りない?
ううん。
私にはちっぽけでも確かな勇気がある。願いも、想いもある。緋衣ちゃんからエールももらった。
これだけ持っているにもかかわらず、何を迷ってるの?
彼に嫌われようと、彼を守りたい。
彼に嫌われても、彼のことが好き。
それが全てだ。何を恐れる必要があるだろう。
もうスタートラインには立った。あとは自分でスタートダッシュの合図を鳴らして、突っ走るのみ。
それに応えるかどうかは、彼次第だ。



