―が…
「ボコッ」だの「バコッ」だの音が聞こえてこない。
あたしは恐る恐る目を開いた。
そこに映った光景は…
先輩が殴りかかろうとしている拳を、尚陽くんが片手で止めていた。
「え…」
「バタ子先輩、そんなに怒るなんて糖分足りてないんじゃないですか?」
尚陽くんはそう言って、鞄から飴玉を出した。
「あげます」
ニコッと笑う尚陽くん。
尚陽くんって…ある意味凄いのかも…。
「チッ…覚えとけ」
先輩は尚陽くんの手のひらにあった飴をひったくり、たった今来た電車の、隣の車両へと消えていった。
飴はちゃんと貰ってくんだね…
でも、まさかあの強い先輩の拳を片手で止めれるなんて…意外だなぁ…尚陽くん。
相変わらず天然だけどね…