血の雫









そういえば。

僕は疑問を覚え、夕食の際にアキナに尋ねた。

ちなみに今日の夕食は、“はんばーぐ”らしい。





「僕、これからどうすれば良いのかな?」



吸血鬼界には帰れないし、行く宛てもないし。

宇津木拓也には記憶喪失だと判断されたけど。

……嘘だけど。




「そのことなら問題ないわ。
ドロップはこれからも、あたしの傍で暮らしなさい?」

「アキナの傍で……?」

「ええ。
あたしの両親、海外で仕事していて、帰ることは滅多にないわ。
ドロップがあたしの家でこれからも暮らすことに、問題はないわ」

「良いの……?」




赤の他人の、僕の最大の秘密―――吸血鬼だということを知らないで。

素性のわからない男を、簡単に居候させても、良いのだろうか?




「ええ。
自分がどこの誰かわからない人を、追いだす真似はしないわ。
拓ちゃんはドロップが居候することに反対していたけど、あたしは何も思わないわ。
逆にドロップを追いだすことをする方が、あたしは嫌だわ」




反対されても?

アキナは…人間は、そんな簡単に誰かもわからない人物を泊めることが出来るのか?




僕は少し、人間を誤解している?

人間は皆、“あの子”のようだと思っていたのに。

アキナのように優しい人間もいるのか……?





「ありがとう。
じゃあこれから、改めてよろしくね」

「よろしく、ドロップ」




僕はにこり、と笑みを浮かべた。

でも、僕は簡単に信じない。

…信じられない、と言った方が正しいだろう。




傷つきたくないから。

僕はもう…信じることは、やめるんだ……。