まだまだ不満だらけの宇津木拓也をテキトーにあしらったアキナと僕は、アキナの家に向かって歩いていた。




「そういえばドロップは18歳だったのね。
高校は卒業したのかしら?」

「はい」

「あたしより年上なのね。
それなのにあたしってば敬語使わないで。
ごめんね?」

「気にしないでください」

「ドロップこそあたしより年上なのに敬語使うのね。
ドロップのお家は、格が高いのかしら?」

「どうなんでしょうね?
詳しくはわからないですね」




恐らくムーンライト家は格が高い。

なにしろ吸血鬼界になくてはならない存在なのだから。




「ドロップ。
あたしに敬語使わないで良いわよ」

「……そうですか?」

「ええ。
あたしの方が年下だもの。
敬語使われると、何だか堅苦しいわ」

「わかった」





『敬語使わないで、タメ口で行こっ!』




ふと脳内に、“あの子”の声がする。

僕がかつて、人間界で暮らした時に出会った“あの子”の声が。





また、僕は人間界で暮らすのか…。

もしアキナが僕の正体を知ったら、どんな反応をするのだろうか?





“あの子”のように、怖がるのだろうか?

それとも“あの子”の友達のように、僕を罵るのだろうか?





どっちにしても、嫌だ。

僕はもう、傷つきたくないんだ。




僕が本来のいるべき世界に帰るときは、アキナの記憶を消そう。

ムーンライト家当主の父さんなら、それぐらい簡単なことだ。




そうしたら、

僕も傷つかないで済むよね……。