「あの……もしもよ、もしも、三日経っても答えが出なかったら?」

「その時点で無理矢理にでも城へ戻って頂きます」

「うぐ……意地悪っ」

「どこが意地悪なのですか。
 3日考えて答えが出ないのならば、それは姫の進むべき未来ではなかったという事でしょう。
 ただ目的もなく放浪するよりは、城に戻られた方が姫の御身の為です」

「じゃ、じゃあ、
 私が“このまま旅を続けたい”っていう答えを出したら?
 私の判断に任せるって言ったくせに、それは認めないって言うの?」

「それが姫の出した答えなら、私は従います。
 ただ、後で“やっぱり城へ戻りたい”と言っても遅いですよ」

「どうゆうこと?」

「国を捨てた姫に戻る城などない、ということです」

「なっ……!
 私、国を捨てるなんて言ってないわ」

「 “このまま旅を続けたい”と言うことは、そうゆうことです。
 国よりも、自分の自由を選ぶ、と」

「そ、それは……」

「ただでさえ、この状況は国際問題へと発展する事態なんですよ。
 誤魔化すとしても、3日が限度でしょう。
 あまり長く城を開けてから再び戻って来たところで、姫が居づらい思いをするだけです」

私は、返す言葉もない。
黙ったまま俯く私に、ルカが口調を緩めた。

「……すみません。言葉が過ぎました」

 たぶん、ルカの言っている事は正しい。
長い間、城を不在にしていた王女が再び戻ったところで、私の居場所はないだろう。
ましてや、婚約者候補の人達を招いている中、抜け出したのだ。
もしかすると、戦争になって、国自体がなくなってしまう可能性だってある。

「……私、とんでもない事をしようとしているのね」

「だから言いましたでしょう。
 “よくお考え下さい”、と」

改めて自分のしようとしている事の重大さに気付き、私は身を竦めた。
城を出ると決めた時から初めて、怖いと感じた。

「そうね……よく、考える事にするわ」

私の口調があまりに重く聞こえたのだろう、ルカが明るい口調で言い足した。

「まぁ、あまり構え過ぎても、良い答えは出ません。
 ただ、姫の選択が決して軽いものではない、
 という事だけ念頭においてくだされば、それで良いのです」

“良い答え”とは何だろうか。
“正しい答え”と、どう違うのだろう。
私は、ちゃんとした答えに辿り着けるのだろうか。

(……だめだめだめっ!
 もう流されないって、決めたんだから!)

「姫、大丈夫ですか?」

少なくとも、0だったところに、3日間も考える時間ができたのだ。
それだけでも、私にとっては希望の光だ。

私は、悪い考えを振り払い、ルカに笑顔を見せた。

「ええ、大丈夫よ。
 ありがとう、ルカ」

「……いえ、姫を傍でお守りし、支えることが私の役目ですから」

「ううん、そうじゃなくて」

言い直した私に、ルカが不思議そうな顔をする。

「私の気持ち、ちゃんと聞いてくれたから」

その瞬間、ルカの顔がぱっと赤くなった。

「お姫様だから、って頭ごなしに叱らずに、
 ちゃんと“私”の気持ちを聞いてくれるのなんて、ルカだけよ」

「姫……」

いつもルカは、私の言おうとする事を理解して、それを受け止めてくれる。

(ルカが居てくれるなら、安心だわ)

私は、自分でも気が付かないうちに、不安を感じていたようだ。
ルカが一緒だと解ると、気張っていた肩の力が抜けたようだった。

ルカに本心を話して良かった。
そう、心から思った。