飼い猫と、番犬。【完結】



開け放たれた障子に凭れかかるようにして立つ、一人の男。



「凄いね、君。思わず魅入っちゃった」


微かな月明かりを受け、どこか妖しげに口許を綻ばせるそいつは、確かにさっきまではいなかった。


此処にいるということは間違いなく敵側の人間なのだろうとは思う。


なのにこの惨状を見ても敵意を寄越すこともなく隙だらけで話し掛けてくる男に、ついと眉が寄った。



「誰です、貴方」

「人に名を聞くなら先に名乗ったらどうだい?それとも、新選組は礼儀も知らないのかな?」


未だ偉そうに障子に体重を預け、顎を引いて私を見るそいつに頬が引きつる。


微笑んだままの無駄に整った顔が妙に癪に障る。


だが、そうも言われて名乗らない訳にもいかない。


「……私は」

「沖田総司、だよね。噂通りだからすぐわかったよ」


……なら聞くな。


何なんでしょうこの人!何か物凄く腹が立つんですけどっ!


鉄臭いこの場に似つかわしくない笑みのこいつと話していると、不思議と山崎の顔がちらちらする。


顔、というより纏う雰囲気が何となく似ている。


人の感情を逆撫でするところとか、凄く。


「で、貴方は?」

「え、君名乗ってないよね?なら僕も名乗らなくて良い筈だけど」



……凄く、腹立つ!