「任せた」
力強く頷いて、近藤さんが身を翻す。
その言葉がまた私を一段と奮い立たせてくれた。
両親を亡くし、実の姉に捨てられるように内弟子(師の元に住み込みで修行する弟子)として預けられた私を家族同然に育ててくれた近藤さん。
兄であり父であるあの人に認められる──それがどんなに嬉しいか、あの人はきっと知らない。
女である私にこの場を任せてくれたあの人の為にも私は今、なすべき仕事をこなすのみ。
階段を下りていくその足音を聞きながら、私は刀についた血を払った。
慣れてしまえば、小さな窓から差し込む月明かりに部屋の様子が浮かび上がる。
逃げようとしている者の背を横一文字に払い、刀を構えて隙を探ろうとしている者の喉に突きを繰り出す。
時には土方さんに倣い、手すりに手をかけた男を階下に蹴落としたりもした。
一階よりも天井の低い二階ではいつものように刀を振るうことは出来ないけれど、それは向こうだって同じこと。
なら、心積もりのあった私の方が有利に決まってるんですよ。
「はっ……はぁっ……」
漸く辺りが静かになった頃には私も息があがり、返り血なのか汗なのかよくわからない程に肌がぬめっていた。
ほどけた緊張感に少し、頭がくらくらする。暑さの所為だろうか。
しかしながら下ではまだ打ち合う音や咆哮が響いていて、のんびり休んでいる余裕はなさそうだ。
早く行かなければ。
噴き出す汗を拭い、くるりと向きを変えて部屋の入り口へと走り出そうとしたところで、
──パチパチパチ
ゆったりと手を叩く音が聞こえた。


