思わず声の大きくなった私に、その人は柔和に微笑む。
「ええ、喜右衛門を奪い返そうとする輩もいるかもしれませんからね。何かあれば私が此方の指揮をとることになったのですよ」
あのあと、拷問に耐えきれなくなった桝屋喜右衛門が吐いたのは、京に火を放ちその混乱に乗じて天子さまを拐うというなんとも無謀な計画。
その話し合いが今晩、宵の口に京のどこかで行われるという。
最後まで場所を話さなかったらしい彼は余程口が固いのか、本当に知らなかっただけなのか。
兎も角、それを押さえれば過激思想の連中は一網打尽。
故に組をあげての御用改めを行うことになった。
「気を付けてくださいね」
細い目を更に細める山南さん。
芹沢さん達がいなくなってすぐ、副長から総長という立場になったこの人は、何故か表で刀を握ることがなくなった。
代わりに論客として公卿相手に色々と動いてくれているから、もしかしたらそういうことの苦手な土方さんと役目を分けたのかもしれない。
でも、このところ脱走者が相次ぎ人手が足りない。
流石に今日は出ると思ったんですけど……。
だがまぁそういうことなら仕方ない。
「はい、山南さんも」
「貴方は冷静さを欠いてはいけませんよ?すぐ無茶をするから心配です」
「……はい」
色々見透かしているこの人に苦笑いを返して。
ほんの少し和んだ心で屯所をあとにした。


