「お前、最近……」



突然手首を掴まれて、はっと驚き後ろを振り返る。


上京してからというもの、拳骨が落ちてくることはあってもこうしてまともに触れられることは初めてだった。


なのに何故かそこに立つ土方さんの顔もまた驚いたように目を見開いていて。


な、何?


私は訳がわからずパチパチと瞬きを繰り返した。



「はい?」

「……いや、すまん、何でもねぇ」


ばつが悪そうに目を逸らした土方さんが何を言いたかったのかはわからない。


でも、何となく鬼の副長の仮面が剥がれたようなその人に一瞬、何かを期待してしまった自分が酷く馬鹿馬鹿しく思える。


何もかもが今更なのに。
この人の一挙一動に一喜一憂しても仕方ないのに。


初めて人を斬ったあの日から、私は女でなくなった。もう戻ることなんて出来ない。


なのに進むことも出来ずに後ろばかり見てる自分に吐き出したくなった溜め息を飲み込んで、私もまた微笑みを浮かべて目を逸らした。



「なら、行きますね」

「ああ」


この人は新選組の副長で私はそこの一隊士。それ以上でもそれ以下でもない。


見返りなんて求めちゃ駄目なんですよ。



それでも触れられた手首が未だ熱を持っている気がして、気付かれないようにそっと、胸に抱いた。