完全に虚を衝かれたように固まるそいつ。


今日はもうこれで良い。


少しずつ崩していけばいいのだから。



「まぁ折角の粥や、冷めんうちに食うてまい。俺はもう出てくさかい、あとはゆっくり休んだらええ。朝の分の薬はそこに置いたあるしな」


そう言って手を伸ばすと流石にびくりと跳ねて肩をすぼめたけれど、ただ前髪の辺りを混ぜただけの俺を、恐る恐る様子を窺うように見上げてきた。


そんな意外なんか。


まるで叱られた童みたいだと小さく吹き出してしまう。


こうしてしおらしくしていればまだうら若い女子にしか見えず、到底男に紛れて刀を振るう人間とは思えない。


こんな所に来なければ、今頃極普通の女の幸せを手に入れていただろう娘。


それを考えると少しだけ、哀れな女にも思えた。



「なんもせんて」

「……信用、出来ません」


笑ったのが気に食わないのか、口を尖らせた沖田にまた笑って、跪座から腰を浮かせる。


「ま、弱ったとこ手籠めにしたかておもろないやろ?わかったら早よう戻し」

「ちょっ」


にやりと笑ってそいつを見下ろすと、ひらひらと手を振って後ろを向いた。


これ以上のお喋りも長居も、今日のところはもう無用だ。



「ほな、おやすみ」


そう言って障子を閉めてもやはり返事はない。


けれど、その向こうでどんな顔をしているのかを想像すると面白くて、俺は笑みを浮かべたままその冷えた廊下を歩いていった。