飼い猫と、番犬。【完結】


信じてくれたのかはわからない。まぁどこでどうなったのかを聞いてこない時点で、きっと何かあるとは感じ取ってくれているんだろう。


一くんも平助も、こういう時無理に踏み込んでこようとはしない。


だからこそ遠慮するなという言葉になって言ってくるのかもしれないけれど。


でも流石にこれは言いたくないし言えない。あんな奴に噛み付かれたなんてただの汚点でしかないから。


暫くは見られないように部屋でも用心しないといけませんね……。


始まった賑やかな食事の影に隠れて細く溜め息をついて、そっとさらしの上から噛まれた部分に触れてみる。


軽く押すだけで痛い。


普通人を噛みますか……。


沸々と沸く怒りに顔をしかめながらも不意に、そこを這った柔らかな熱の感触が頭に甦った。


……ああやだやだっ。



「あれ? なんか顔赤くない? やっぱり体調悪いんじゃ……」

「き、気の所為ですよっ! ほら、お味噌汁が熱かっただけです!」


心配そうにこっちを向いた平助に慌てて言い訳し、そのまま顔を背ける。


真横なのに気付くの早過ぎ。


ていうか私の馬鹿馬鹿!


あの擽ったさを思いだし、不覚にも全身にゾクリと震えが走ってしまった。


腹がたっただけ。そうに決まってます。ああまた腹がたってきました。


耳の先まで熱い自分に苛立つ心を落ち着かせようと、そっと湯飲みに手を伸ばす。


ごくり、生温い液体が喉の奥に落ちていくと、何故か肌が微かにざらついた。


……本当に風邪かも。


熱が上がる前兆に似たその感覚に腕を擦り、さっさと食事を終わらすべく、私は再び箸に手を伸ばした。