飼い猫と、番犬。【完結】


隣に腰を下ろしながら平助が自分の首を指差す。


結局稽古には行かなかった私は、通いで詰めている女中さんを手伝い、朝餉の準備をすることにした。


一応稽古が終わった頃を見計らって土方さんに言い訳しにいった時、小言と拳骨が落ちてきたけどまぁそれは想定の範囲内。


それより困ったのはこっちだ。



「……突然現れた猫に引っ掻かれたんです」


部屋に帰って鏡を見たら、首にはうっすらと血が滲むくらいくっきりとあいつの歯形が残っていた。


どう見繕っても一日二日で消えるようなものじゃない。


……あの野郎。


口悪く悪態をついてみても、人に見られたらまた可笑しな噂がたちそうな気がした。


仕方なくさらしを巻き付けて隠してみたのは良いけど、これまた妙に目立つからたちが悪い。


土方さんも嘘だって気付いてるんでしょうね……。



「ふぅん……? こっちは?」


訝しげに指差された拳を見ると、さっき戸板を殴った時に打ち付けた部分が赤黒く変色している。


「……これの間抜けさに苛々してその、柱を、こう……」


うぅ我ながら苦しい。


片手で首を擦り、拳を突き出して苦笑いしてみせた私に、平助は呆れた顔で大きく息を吐いた。


「あのね……確かに間抜けだけど最後のそれはもっと間抜けだから」

「……はい、ごもっともです」


次からはこうならないように足を使おう……。