「なあ」

「っ、わ!?」


本棚に囲うようにすれば、慌てて振り返ったそいつは俺との距離に益々慌てて後ずさる。

けれどそこには高くそびえる本棚があるだけ。
逃げ道などない。


「な……なんですか」

「なんでって、わからへん? 俺らそろそろ付き合ってひと月は経つで?」


過保護な兄貴たちの目をかいくぐり、漸く手に入れた頃には夏も終わっていた。

余程あの連中に大事に囲われ育てられたのか、思いの外真面目で真っ直ぐなこいつにいつの間にか本気になっていた俺。

今時の大学生らしからぬ初さにどうにか付き合い一ヶ月。

そろそろ少しくらい手を出してもいいと思う。


「ちょっ、待っ……先輩っ」

「その先輩っちゅうんもそろそろ止めようや。名前、知ってるやろ」


こういう雰囲気に慣れていないそいつはあわあわと慌てながらに頬を染める。

いつもは気の強いしっかりとしたこいつだからこそ、そんな風にされると益々その全てが欲しくなる。

少しずつ、少しずつこの手に落ちてくる感覚が酷く心地よかった。


「呼んでや」

「っ……」