「どこまで本気だ」
思わず視線をやった俺に、真っ直ぐ目を合わせてきた彼を囲う空気の重さが増した。
はっきりとした意思が見えるその眼は、決してさっきの連中なんかのことを指しているんじゃない。
此処の幹部連中が大切そうに扱う唯一の人間に対するものだ。
「俺は何事にも本気やで?」
でなくば面白くない。満足感は得られない。
「……俺は」
俺が少しだけ眉を下げて笑うと、斎藤くんはその眼の奥を微かに揺らして言った。
「あいつが望むなら構わないと思っている。……否、寧ろその方が良い」
意外だった。
正直まさかそんな言葉が俺に向けられるとは思っていなかったから。
最後に少しだけ目を伏せ呟いた言葉は、最早俺にと言うより独り言に近いのだろう。
どこか弱々しく、まるで自身に言い聞かせるように呟くこの人は初めてだった。
まぁ、それもほんの一瞬。
「……だが、興味本意で近付いているだけなら話は別だ、あれは決して渡さない。それだけは心しておけ」
涼やかな目の奥にある感情はまだどれか判断しかねるものの、僅かに放たれた殺気に思わず肌が粟立つ。
その言葉だけを残してくるりと俺に背を向けた斎藤くんの綺麗に結われた髪を見ながら、俺は一人苦笑いした。
まった敵の多いこっちゃで。