「ここまで育てていただき、本当に有り難うございました」


久々にその手が俺を抱く。
すっかり一人の女子へと成長した彼女は明日、幼馴染みの男と祝言を挙げる。


この腕にすっぽりと収まり泣くだけだった小さな赤子はいつの間にかこんなにも立派に大きくなって、愛しい男を見つけ、この家を出て行く。


それはとても淋しくて、嬉しくて。


俺は、漸く心の底から幸せだと言えるような気がした。



「……母さまも、喜んでくれるでしょうか」

「勿論だ。あいつは誰よりもお前の幸せを願っていた」

「……はい」


泣いているのか、彼女の体が震える。
俺を気遣ってなのか、これまで口にすることのなかった母のことを溢した彼女の中にも、奏は大きく座していたのだろう。


たった一人の母なのだから。


これからは少しずつ、お前のことを話してやろうと思う。



奏。


俺達の娘はこんなにも優しく成長した。
お前のお陰で俺は、父になれた。
新選組にいた頃からは想像も出来ないこの暮らし、いつかもう一度会う日が来たらお前はなんと言うだろうか。


皆は、なんと言うだろうか。


らしくないと、笑われるだろうか。


……それでも良い。
俺はまだ、父としてやらねばならぬことが沢山ある。


だからもう少しだけ待っていて欲しい。


この役目を終えるまで――