総司がいなくなって、もう十年以上が過ぎた。


労咳という死病に侵された彼女を新選組から連れ出した俺は、結局そのまま新選組に戻ることはなかった。


何故なら、彼女は一人の子を、俺に遺したからだ。


元気な、女の子だった。


その子を産んですぐ総司は……奏は、息を引き取った。本当なら彼女にはもう、子を産めるような体力は残されていなかったのだ。


それでも彼女は我が子を抱いて嬉しそうに笑った。


これで本当の家族になれたと言って。


それはとても幸せそうな顔だった。


だから、悲しんでばかりなどいられなかった。


子など育てたことのない俺は毎日が必死だった。


おしめを替え、あやして、寝かしつけて。
腹が減ったと泣く我が子の為に、子を持つ女性のところに日に何度も通って乳を貰った。


全てがわからないことばかりだった。
どうして泣くのかわからず困り果てることも幾度もあった。


屯所を出るまで飯炊きなどしたことのなかった俺は何を食べさせればいいのかもわからず、これまた近所の人に助けられることばかりだった。


奏がいたらと、何度も思った。


母に会いたいと泣く我が子に、俺はなんて言ってやればいいのかわからなかった。


幼子にとって母とはとても大きな存在で。


敵わないと、何度も心が折れそうになった。


それでも俺は、やはりたった一人の俺達の娘が何よりも大切で、愛おしかった。