此方を見ようともしないそいつの言葉はやはり上方のものではなかった。


あまり抑揚のないその声はどこか泣きそうで、投げ遣りで。


少しだけ、胸がざらついた。


それ程苦しげに悩んで尚捨てることが出来ない物ならば、いっそ持っておけばいい。


無理に手放せば二度と戻らないそれに逆に心が囚われる。


人とはそういうものだ。


失ったものにこそ焦がれる。
欲する。
愚かな生き物。


俺も、昔はそうだった。


そんな思いで口にした言葉。


結局一度も此方を振り向かなかった女は、初めに見た横顔しか知らない。何者なのかもわからず仕舞い。


まぁ所詮は見ず知らずの赤の他人、別れてしまえばすぐにどうでもよくなった。


捨てたのか捨てなかったのか。
あの女の行く末など俺の知るところではない。


もう会うこともないのだから。



そう、思っていたのに──










「……どうしたんですか?」