勿論、総司も葛藤がなかった訳じゃないんだろう。


その日からよく、井戸端にいる姿を見かけるようになった。


見る度に手を洗っているその行為は俺にも身に覚えがあった。


血が、消えないのだ。


洗っても洗っても、ふとした瞬間視界に赤が過る。掌がぬめる。肉を断つおぞましい感触が手に甦って、噎せ返るような血の臭いに襲われた。


人斬りという消えない罪が、常に己を苛む。




「……」



声を掛けたかった。


でも、出来ない。


許される訳がなかった。


総司を……女であるあいつを自分の夢に巻き込んだのは他でもないこの俺なのだから。


ついてこないようにと、帰るようにと仕向けても、結局それも叶わなかった。


人斬りに堕ちたあいつを一人で日野に帰す訳にもいかない。


こうなった以上もう庇ってやることも出来ず、日々歯痒さだけが募った。


それでも幸い、あいつの傍にはいつも平助や斎藤がいた。あいつらが総司を守ってやってくれていた。


近藤さんもいる。左之や新八、山南さんに源さんだってあいつを常に気にかけていてくれている。


そうしているうちにあいつも徐々に此処での生活に慣れていった。


それが喜ぶべきなのかどうかはわからなかったが。


それで良いと思うようにした。