総司が初めて人を斬ったのは、京に上って一月も経たないある晩のことだった。


我らが壬生浪士組の筆頭局長だった芹沢鴨──そいつに半ば強引に連れられるようにして出掛けた島原からの帰り。


運悪く夜道で絡んできた酒の回った浪士とやり合う羽目になった時、あろうことか芹沢が言ったのだ。



「お前が殺れ、沖田」



芹沢はそれまでも刀を抜かない総司に──抜かせない俺達に不満を漏らしていた。


一見華奢で非力な見た目も相まってか、芹沢はあいつを仲間と認めていなかったように思う。


若衆(衆道においての女役)か、なんてせせら笑ってあいつを見下していた。


総司もそれをわかっていた。
だからだろう。



「……承知しました」



俺達が間に入る言葉を考えている間に、総司は表情のないままいとも容易くあっさりと、二人を殺してしまった。



「これで、満足ですか?」



顔に掛かった返り血に白い月明かりが朧に滲んでいた。


うっすらと唇を上げてどこか妖艶に佇むそいつに誰も……芹沢さえも言葉を発しなかった。


元々総司は技量としては俺よりも長けていた。けれど竹刀と真剣では勝手が違う。


普段は腰に下げた大小が重いと漏らしていたそいつなのに、易々と鯉口を切ったかと思うと、竹刀と変わらぬ速さでそれを振るう様からは微塵の重さも感じられなかった。



夜叉──



人成らざる者へと落魄したそいつを見て、俺は改めて震える程の後悔を覚えた。