「こほっ」


……風邪かいな?



不意に漏れた咳。
昼夜の寒暖の差が激しいこの時期、酷く蒸す日もあればこうして少し肌寒く感じる日もある。


あかんあかん、気ぃつけよ。


僅かに強く吹いた風が近くに生えた石榴の木から滴る雨露を俺へと吹きつけて。


その冷たさにぶるりと身震いした俺は、早々に障子を閉じることにした。




「やま……ざき?」



そんな俺の気配に気付いたのか、目覚めたばかりの沖田が寝ぼけ眼で俺を見る。


ごしごしと目を擦る寝起きの悪いそいつは、とても組頭筆頭を任されているとは思えない程の警戒心のなさ。


ちゅうかどう見たかて普通の女子やし。



「なにして……」

「や、雨やんだなあって見とっただけ。冷えてもうたし俺も入れて」

「冷たっ。外はまた急に冷え込んだんですね……」

「ほなまた二人で温まる?」

「は?何言って……ってちょ!待っ……山崎っ!」



嫌よ嫌よも好きのうち。
湿り気を残した沖田の体は簡単に俺を受け入れて。


いつの間にか再び振りだした雨が熱を帯びた俺達の音を飲み込んでゆく。


触れ合う肌は暖かく、もうそこに寒さは感じなかった。


淋しさなど肌を重ねれば紛れるもの。


何もない穏やかな非番。
こんな日は久々に色に溺れてみるものきっと、悪くない。












       ─イロイロヅキ─