「帰り……ません」


回した腕に、指が触れた。


それをぎゅっと握り、絞り出すように呟かれた声はその決意の固さを表しているように思う。


「一くんこそ、その、私で……良いんですか?」


あの人とのことを言っているんだろう。新選組の一人として側にいる以上彼女の中であの人が完全に消えることはない。


彼女もわかっている。後ろめたい気持ちもあるのだと思う。


だが、勿論俺もそれをわかった上で想いを告げたのだ。


側にいられるのなら、今は慰みでも身代わりでも何でも構わない。


お前が手に入ればそれで良い。



「お前でなければ駄目だ」



ずっと見ていた。


並んで歩く姿を。
はにかむ笑みを。
姿を追う眼を。


それが今、この腕の中にいる。


それ以外に一体何を望もうか。



「一く」

「一でいい」


首筋に唇を寄せ、彼女の言葉を遮る。


ぴくりと跳ねた滑らかな肌、今まで触れることの叶わなかったその感触に、堪えていたものが溢れ出す。


じわりと熱が広がって、本能が頭をもたげた。彼女を抱く腕にも自然と力が籠る。


これ程までに余裕を欠いたことがあっただろうかと、微かに残る冷静な頭が自嘲するが。



「はじ……」

「────」



初めて呼んだ彼女の名ごとその唇を塞いでしまえば、もう、そんなことすらわからなくなった。